AIでコードを書かなくなる時代に、エンジニアの仕事は本当になくなるのか
「開発の民主化」時代のエンジニアとは?
Google I/O 2026では、Geminiをはじめとする生成AIによって、コードを書けない人でもソフトウェアを作れるようになる、という方向性が強く示されました。いわゆる「開発の民主化」ってやつです。
このSubstackは読者の皆さんのご支援によって成り立っています。新しいポストを受け取り、私の活動を応援していただくには、無料または有料の購読者になることをご検討ください。
この流れを見ると、「ソフトウェアエンジニアの仕事はなくなるのではないか」と感じる人もいると思います。しかし、ソフトウェアエンジニアという職業は、そもそも歴史的にずっと技術革新によって揺さぶられてきたかと思います。
アセンブリ言語や機械語から、FortranやCOBOLのような高級言語へ移行したときも、「これで専門のプログラマーはいらなくなる」と言われました。パーソナルコンピュータ、オブジェクト指向、インターネット、Web、アジャイル、DevOps、クラウド、ローコード、ノーコードの登場でも、確かに「今までの開発者は不要になる」と言われ続けてきました。
けれども実際に起きたのは、仕事の消滅ではなく、仕事の「重心」の移動でした。低レベルの実装や定型作業は抽象化され、そのぶん、より大きく、より複雑なシステムを作る仕事が出てきたのです。
生成AIも、この歴史の延長線上にあります。
もちろん、今回のAIの波は速く、影響範囲も広いです。ボイラープレートコードを書く、簡単な画面を作る、APIクライアントを生成する、テストの雛形を書く、といった作業は、かなりAIに置き換えられていくでしょう。これまで「手を動かしてコードを書くこと」自体に価値があった領域は、確実に圧縮されます。
ただし、それはエンジニアリングの価値がなくなるという意味ではありません。
AIがコードを書けるようになっても、CPUやメモリの制約は消えません。ネットワーク遅延も、セキュリティ要件も、スケーラビリティの問題も、顧客の曖昧な要求も、ビジネス上の制約も残ります。むしろ、誰でもソフトウェアらしきものを作れるようになるほど、設計、検証、保守、責任分界、セキュリティ、性能、データ管理の重要性は増していきます。
また先日の記事にも書きましたが、AIが生成する単位時間当たりのコード量は膨大です。プロフェッショナルなエンジニアが構築できるソフトウェアは、これまで以上に大きなシステムになっていくでしょう。既存の巨大プロジェクトを丸ごとRustへ移行する、なんて決断もできる時代です。より見なけれなばならない範囲が大きくなっていくのです。
ここが、単なる「コード生成」と「エンジニアリング」の違いです。
コードを書くことは、ソフトウェア開発の一部にすぎません。本当に難しいのは、何を作るべきかを見極めることです。誰のどの問題を解くのか。どの制約を優先するのか。どの指標を優先してテストすべきなのか。AIが生成したものが正しいかどうかを、どう検証するのか。より大きな、より複雑なシステムをどうメンテナンスしていくのか。
AIは、こうした作業を補助できます。しかし、最終的な判断は人間側に残ります。もっともらしいコードを書けても、それが安全か、運用に耐えるか、顧客価値につながるかまでは、自動的には保証されません。また人力ではコスト的に見合わなかったような作業も可能になってきます。
だから、AI時代のエンジニアに求められる能力は、「自分で全部コードを書く能力」から、「AIを使って問題解決の精度と速度を上げる能力」へ移っていきます。
これは悲観するべき変化ではありません。むしろ、退屈な定型実装から解放され、より本質的な問題に集中できるという意味では、好ましい変化でもあります。
ただし、全員が自動的に恩恵を受けるわけではありません。新しい抽象化に適応した人は生産性を上げ、より難しい仕事へ移っていきます。一方で、定型的な作業だけに依存していた人は、変化の影響を強く受けます。
これから重要になるのは、問題定義、システム思考、検証、ドメイン知識、セキュリティ感覚、運用設計、そしてAI活用力です。
つまり、AIによってエンジニアの仕事がなくなるというより、エンジニアの仕事の定義が変わっていくのです。より広く、より複雑に。
これから強いのは、「AIに仕事を奪われない人」ではなく、「AIを使って、より本質的なエンジニアリングに踏み込める人」です。
コードを書くことだけでよかった人材は、少しずつ終わっていくかもしれませんが、結局は、どう問題を定義し、どう構造を見抜き、どういう制約の中で解決策を設計し、それをどうやって現実の価値につなげるか、という仕事の本質はなくなりません。
むしろAI時代になって、ソフトウェアエンジニアは「コードを書く人」から、「より複雑な問題をソフトウェアで解く人」へ、よりはっきり移行していくのだと思います。
結局のところ、「AIに仕事を奪われる」ではなく、「AIを使いこなした人に仕事を奪われていく」んじゃないかと感じております。
ここまでお読みいただき誠にありがとうございました。
このSubstackは読者の皆さんのご支援によって成り立っています。新しいポストを受け取り、私の活動を応援していただくには、無料または有料の購読者になることをご検討ください。


